譜めくりの女(06年フランス)

あがり症の女性ピアニスト、人気も実力があるが、いつも演奏には不安要素を抱えている。ナーバスゆえ、譜めくりの人と意気投合するかどうかが演奏の出来に大きくかかわってくる。
そこに、ぴったり寄り添ってくれる若い女性があらわれた。譜めくり役としての相性は申し分ない。ピアニストにとってその女性の存在はどんどん大きくなり、いつしか音楽上の関わりを超え、全人格的に依存していくようになる。もともと尊大な亭主に愛情を感じられなかったこともあり、それはいつしか倒錯の愛情に変わっていく。
だが実は、その若い女性は、幼少の頃受けたオーデションで審査役だったこのピアニストに復讐するため接近してきたのだった。
ピアニストと若い女性の関係ははたしてどうなるのか・・・。

出来すぎのストーリーだ。女性ピアニスト側に復讐劇を成立させてしまう条件が備わりすぎている。すなわち、あがり症、亭主との不和、譜めくり役募集中、レズビアン的素質、などなど。それゆえ、復讐する側にとって、本来は周到な復讐劇になるはずが、あら、いつの間にか復讐できてたわ、って感じになってしまっている。つまり若い女性が自分で作り上げた復讐劇ではなくなっていると同時に、若い女性の本来の意図すらぼやけさせてしまっている。


なにより復讐の動機となった出来事。これにちょっと違和感がある。オーディション中にそんなことするか?という理不尽さを感じるのだ。復讐劇のそもそもの発端に無理があるとうまく感情移入できない。

だが、この若い女性の無表情さが魅力的で、観ていて飽きない。あと、オーデションを受けた子供時代の子役がよかった。自身の中にあるピアノを弾くことの自信と不安、両親の期待に応えたいという思い、それらが自然に伝わってくる。


あがり症ということでいえば、自分のようなポップス系の演奏においては、あがって真っ白になってポカンの間があいて、それがけっこういい間になって、終わってみれば今日良かったじゃん!、みたいなこともあるのだが、クラシック系ではそうもいかないだろう。良かったぁ、ポップス系で。


ともあれ、この映画、時間も90分くらいなのがいい。これくらいの時間がもっとも集中できる。コンサートも90分くらいが良い気がする。トイレも気にしなくていいし。