会話がとっちらかる瞬間

 

 地元のケーブルテレビの番組で好きな番組があった。町内会の祭り、ショッピングセンターのバーゲン、地域スポーツ大会、音楽祭などきわめてローカルなイベ ントにおいて、一般の老若男女にどしどしインタビューするという15分番組。インタビューされた人は、最後に決めポーズをとらされて、はい次の人へとな る。

 見ていて思ったのは、人は大きく分けて二種類あるなぁということ。すなわち、いきなりインタビューのマイクを向けられて、とっちらかる人と冷静に対応する人だ。
質問の内容は、今日は何を楽しみにきたか、あるいは何を買い物にきたか、スポーツや音楽はやってて楽しいか、などという他愛のないものだが、それでもいち おうは自分の言葉で対応しないといけない。インタビュアー、カメラマン、音声、ディレクターからおそらくはなる4、5人のグループにいきなり取り囲まれる わけである。それに周囲の人の目もくる。これは非常事態と言えなくもない。だからとっちらかるのは、この非常事態に困惑して何をしやべっていいか分からな いということが原因であることが多い。でも、他の理由でとっちらかる人もいる。それはサービス精神あるいは自己顕示欲が旺盛なゆえに、せっかくインタ ビューされたんだから、なにか気のきいたことやおもしろいことを言おうとしつつ、うまく表現できず空回りする、というタイプである。僕も多分このタイプな ので空回る気持ちはよく分かる。
 一方、冷静に対応する人、これも幾種類かある。
①きわめて事務的な受け答えをする人。概して表情がなく無難な内容で面白みがない
②マイペースを保ちつつしゃべる人。その人の世界をはっきり持ってるがあまり関わりたくないタイプの世界の場合もあり。がんこオヤジタイプといいますか。
③表情おだやかに、にこやかに話す人。無難なのは①と同じだが、見ていて好感が持てる。人ができてるな~と思う。

 そして、問題は、ある夏祭り会場の回におこった。盆踊りに興じ、しばし休憩していた30代くらいの主婦がインタビューを受けた。
インタビュアー「盆踊りはお好きなんですか?」
30代女    「いえ、見よう見まねでなんとか」(満面笑みで好感がもてる)
インタビュアー「お祭りでは何か食べましたか?」
30代女    「はい、さっき焼きそばを」
あきらかに出だしは上記③の対応の人だなと思って見てると、ここから会話は急に暗転する。
インタビュアー「焼きそばは、おいしかったですか?」
30代女    「えっ!・・・・・・・」
何の変哲もないやきそばの美味しさの程度を問う質問に対し、30代女はあきらかに動揺を見せ、それまでにこやかだったのが一変、油汗がにじんだような不愉快そうな表情になった。かなり危険なとっちらかりムードにインタビュアーもたじろぎつつなんとか次の質問を搾り出す。
インタビュアー 「き、今日は他には何を楽しまれますか?」
30代女    「・・・・・・」
インタビュアーは、「で、ではお祭り楽しんでください」と後ずさりしていった。

 なにが起こったのか。やきそばがとんでもなくまずかったのか。
それにしてもその位のことで、そこまで不愉快になるものだろうか。
僕は考察の末、30代女は急に会話エネルギー切れをおこしたのだと結論づけた。なんとか無難に応答してはいたが、元々この女性にしてみれば二問無難に答え るのが限界だったのだ。だからやきそばの美味しさを問う三問目には心の脱水症状をおこし、もはや制御不能になったのだ。人によって会話エネルギーの容量は 違う。ゆえに会話がとっちらかる瞬間はいつくるか分からないのだ。

 この番組はこういうやりとりの妙に触れることができたり、ユニークなキャラが登場したり、思いがけぬ美人が登場したりして、民放のどの番組よりおもしろかったのだが、地元ケーブルテレビ自体が大手ケーブルテレビ会社に吸収されてなくなってしまった。なんとも残念だ。