女が階段を上る時 (60年 日本)

 

 登場する主要な男たちはみな、バーのママ高峰秀子(未亡人)をなんとかしたいと思ってる。だが身持ちが堅い高峰は男たちになかなか隙を見せない。でも、病気や将来への不安から、一番もっさらこいけれど、一番実直な加東大介(ウガンダ似)を選び、結婚の約束をする。
 しかし!加東は実は結婚詐欺師だった。悪人というより思い込みから来る病的な詐欺師なのだが。テレながら高峰にプレゼントを渡したり、家まで送ったら紳 士的にさっとそのまま帰ったり、病気の高峰を親身に見舞ったり、結局、こういうまっすぐな気持ちを持った男が一番やなぁ、と、うんうん頷きながら観ていた だけに、これには腰がくだけるほど驚いた。加東は天才だ。

 それと見ていて、あ~これは怖い!と思ったシーンがある。
それはふいにやって来る「仲代達矢とヒロインがせまい部屋でふたりきり」のシチュエーション。若き角刈りの仲代(若き王貞治似)はほんとうに不気味だ。見 開いた目は焦点が定まらず、ときに口をぽかんとあけ、ゾンビに近い感触がある。しかもこのゾンビが胸に秘めるは、熱いのか冷たいのか分からぬ恋心とくる。 これはやっかいだ。同じ成瀬映画の「娘・妻・母」でも、原節子と部屋でふたりきりになり、危険を察知した原節子が、足元に転がる掃除機を見つけ、いきなり ぶあんぶあん掃除機がけをしだすという名シーンがあるが、このときも背後にぬっとしのびよる、仲代のゾンビフレーバーは凄いものがあった。

 
 ほんとうに怖い仲代。もっとも天才加東も怖いといえば怖い。存在自体が、すでに化けて出てきてる感あり。仲代VS故加東 これで一本作ってほしかった。とびきりのサスペンスホラーものを。